作品概要 この年の1月に開場したKAAT神奈川芸術劇場のオープニングプログラム、〈NIPPON文学シリーズ〉の一作品として制作された。『お伽草紙/戯曲』に続き、戯曲化を永山智行氏に依頼。初日となる3月11日に東日本大震災が起り、横浜での公演はその後、3月13日の一回を除いてすべて上演中止となった。

 

 

 

撮影:橋本武彦

 

 

2011  
日程・会場
2011.3.11-21 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2011.3.26-27 びわ湖ホール 中ホール
 
原作 芥川龍之介
戯曲 永山智行
演出 三浦基
出演 安部聡子
石田大
大庭祐介
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
谷弘恵
スタッフ 照明:吉本有輝子
映像:山田晋平
舞台美術:杉山至+鴉屋
音響:堂岡俊弘
衣裳:堂本教子
特殊造形:杉本泰英
舞台監督:鈴木康郎、大鹿展明
舞台監督助手:湯山千景
制作:田嶋結菜
  京都芸術センター制作支援事業 神奈川県芸術劇場・びわ湖ホール共同制作事業 
主催 神奈川芸術劇場(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
助成 公益財団法人セゾン文化財団、アサヒビール芸術文化財団、EU・ジャパンフェスト日本委員会
平成22年度文化庁芸術拠点形成事業
協力 ホテルJALシティ関内 横浜、井神拓也(ヨーロッパ企画/オボス)

 

 

なにがなければ演劇にならないのか、という問いがあります。私はこれまで、演劇に不可欠なのは「俳優」だと思ってきましたが、最近、俳優だけでは演劇は成り立たないのだな、と実感しています。演劇になるためには「観客」が必要です。私の演出の作業は常に観客に対しての演技の問題を考えていたのだということに、遅まきながら気づいたのです。 劇場には、舞台だけでなく客席があります。劇場には観客について考える人たちがいます。劇場と一緒に作品をつくるということは、そういう意味で私にとって大ごとなのです。今はじまったこの一大事に、ぜひとも立ち会っていただきたいのです。

三浦 基

出典:公演チラシ
劇評 地震から2週間して、「地点」の公演『Kappa/或小説』がびわ湖ホールであった。まさに「あの日」3月11日から神奈川芸術劇場で12回の公演予定だったのが、ただの1回しか実現できずに(中略)、大津へやってきたのである。
上手からはじまってレールが渦を巻くようにひかれていて、登場人物が乗ったトロッコを別の人物が押して進む。トロッコはいったん舞台の後方の壁に隠れ、そのあとすぐにまた現れてぐるっと回りながら終点に到達する。そしてまたその逆方向で舞台から姿を消す。(中略)そんな単純といえば単純な舞台装置のうえで、7人の出演者が芥川龍之介の作品から永山智行が選んで作った言葉のコラージュを、いつもの三浦基風のアクセントをつけて発語しつづける。ああ、ここはあの作品から採ってきたなとわかることのある他方で、いまのは出典がなにであったのか、これまでけっこう芥川を読んできた者にもちょっとわからないところもある。壁面にはトロッコに乗った彼らの表情や当時の新聞記事などが次つぎと映し出される。映像はモノクロである。
新聞記事は昭和2年7月の芥川の自殺を報じたもの、大正12年9月の関東大震災にかかわるものなど。そう、作家がいだいていた「ぼんやりとした不安」と震災という事件をつなぐことが、この演劇作品の中心的なモティーフのひとつとして当初から構想されていたのだ。その上演のはじまる日にあの大規模な地震と津波が生じたというのは皮肉なことであった。神奈川での公演が1回をのぞいて中止になったのは、しかしそのせいではなかったと信じる。
大正12年にも多くの人が立ち去っていった。そして芥川もまた、グルニエが採りあげるいくにんかの作家とともに、世界から立ち去り、文学的創造行為を未完結のままに残したひとりであった。この立ち去り未完に終わった作家の、したがって表面上は弱々しいものとも響く言葉のうちに、三浦基はたいそう大きな力を回復させた。数週間来この国で繰り返されている「がんばれ日本!」などといった単語とはまったく無関係に、しかもそんなものをはるかに凌ぐ力である。

京都芸術センター通信「明倫art 6月号」2011年5月、館長コラム「言葉の力」
富永茂樹