劇団CHITEN
2010 東京芸術劇場 / 撮影:青木司
——ところでアルトーさん、
彼は膝や足であり、後頭部や耳であり、肺や肝臓であり、膜や子宮であり、肛門や鼻であり、性器や心臓であり、唾や尿であり、食物や精液であり、排泄物や観念であります。
つまり自己であり、自分自身であるものは、唯一の知覚という軸をめぐっていないし、自己は身体の中に拡散しているので、唯一とはいえないからです。
作品概要
『チェンチ一族』のリーディング公演から2年がかりで取り組んできたアルトーのテキストをついに舞台化。『追伸』で用いた「神の裁きと訣別するため」に、アルトー自身が友人や恋人に宛てて書いた手紙をコラージュして構成した。この年から始まった京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENTの参加作品として上演、フェスティバル/トーキョーへも本作で初参加となった。
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2010日程・会場2010.11.3-7 京都芸術センター フリースペース
2010.11.19-23 東京芸術劇場 小ホール1テキストアントナン・アルトー翻訳・構成宇野邦一演出三浦基出演安部聡子
石田大
大庭裕介
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
谷弘恵スタッフ照明:吉本有輝子
映像:山田晋平
舞台美術:杉山至+鴉屋
音響:堂岡俊弘
衣装協力:KAPITAL
舞台監督:鈴木康郎
制作:田嶋結菜主催地点[京都公演]
KYOTO EXPERIMENT[京都公演]
フェスティバル/トーキョー実行委員会[東京公演]
東京都
豊島区
東京文化発信プロジェクト室
東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
財団法人としま未来文化財団
NPO法人アートネットワーク・ジャパン共同製作KYOTO EXPERIMENT
フェスティバル/トーキョー助成公益財団法人セゾン文化財団[京都公演]
EU・ジャパンフェスト日本委員会[京都公演]
財団法人アサヒビール芸術文化財団[東京公演]
平成22年度文化庁優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業共催社団法人国際演劇協会(ITI/UNESCO)日本センター[東京公演]
協賛アサヒビール株式会社 株式会社資生堂[東京公演]
劇評
もっとも瞠目させられたのは、常軌を逸した速度で一息にテクストを発話し続ける女優で、地点の俳優訓練とは一体どのように行われているのかという驚きを隠せないほどの圧倒的なパフォーマンスだったのだが、筆者はそれを見ていて、誤解を恐れずに述べると、突然の笑いの発作に襲われたのである。そう、それは物凄く可笑しかった。徹底的にシリアスだが、同時にこの上なく、ほとんど狂気に近いほどにスラップスティックだったのである。
そしてこの笑いこそは、おそろしく「演劇的」なものだったのだ、と断言しておきたい。三浦基と地点は、アントナン・アルトーという、いわば「不自然さ」の極点のごとき言葉を、俳優の並外れた身体と、その「不自然」な駆使の強力なアップグレイドによって、透徹した真摯さと謎に満ちた哲理はそのままに、哄笑への誘いに変換してみせたのだ。そしてそれは同時に、紛れもない一つの「アントナン・アルトー論」でもあったのだと思う。
いや、これは「不=自然」というよりも、もはや「非=自然」とでも呼ぶべきなのかもしれない。三浦基と地点は、ポスト「現代口語演劇」の「反=自然主義」の段階を超えて、新たなステップへと歩を進めつつある。
佐々木敦
F/T10ドキュメント(一部抜粋)
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晩年のアルトーは復活した。しかしそれは宗教の話ではない。単に助かったのである。例えば麻酔なしの電気ショックという今では考えられない治療という名の拷問から。助かった者は、もちろん図太く、ますます身勝手でもあるが、とにかく強いのである。そして私の関心は、その強さの裏側にあるしたたかさと、むしろ今度は弱さとでも呼ぶべきかもしれない神経の正体についてである。だからこれは、アルトー救済の劇ではない。もう一度、彼を拷問してみようという私の意地悪だけがまずある。
三浦 基
出典:公演チラシ