HOME > Theater Company CHITEN
劇団CHITEN

2015 KAAT神奈川芸術劇場 / 撮影:松本久木

三人姉妹

  • #チェーホフ
  • #杉山至
  • #コレット・ウシャール
  • #KAAT神奈川芸術劇場
  • #京都芸術センター
  • #ロシア文学
  • #海外戯曲

あなたがたのあとに、あなたがたのような人が、今度は六人でてくるかもしれません。それから十二人、それからまた……というふうに殖えていって、ついにはあなたがたのような人が、大多数を占めることになるでしょう。

作品概要
KAAT神奈川芸術劇場との共同制作作品第5弾。三浦基の初期の代表作をまったく異なる演出で再上演。四つん這いで床の上を這いずり回り、組んず解れつしながらでなければ言葉のやり取りのできない登場人物たち。生き続けなければならない人間の、持て余された人生たちがそのまま運動量に変換され、充満する。世界一フィジカルな静劇。

あれからもう10年以上が過ぎました。当時、地点は東京の青年団という劇団の内部ユニットとして活動していました。青年団が新しく春風舎というアトリエを構えたのは、2003年のことで、そのこけら落とし公演が、私の企画である『三人姉妹』でした。その後、地点は2005年に京都に拠点を移して独立しました。そして、チェーホフの『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『桜の園』と立て続けに発表しました。今では、この3本は、地点のレパートリーとして常時上演しています。2013年についに持つことができた自分たちのアトリエ「アンダースロー」においてです。 私にとって『三人姉妹』は、自身の演劇活動を振り返るときの原点となる作品です。演出家は過去の成功にしがみつくものですね。あのときを超えられるのかといつも思っているのです。当時のパンフレットに次のような文章を載せていました。自信しかない若き演出家のコメントを、どうぞ読んでみてください。

私の演出作品が、韓国のソウルフリンジフェスティバルに招聘されることになったのがきっかけでこの芝居をつくりはじめました。地点にとって初めての海外公演にもかかわらず、新作、海外初演という危険がいっぱいの決断でした。今、こうして東京公演に向けて再び稽古をしていると、夏の暑い稽古場のことがひどく昔のように思えます。おそらくそれは、大量の欲望と未知な領域への不安にメンバー全員が酔っていたからだろうと思います。いい作品ができたとき、なぜこんな作品になったのか誰よりも驚くのは演出家かもしれません。もちろん、いい作品云々を当事者が口にするほど怪しいことはありませんので警戒して観てください。ただこの作品は、その驚きの中に十分な謎の体力があったことだけは確かです。この奇跡を生んでくれた多くの出会いに感謝します。そして、チェーホフ、あなたにやっぱり感謝します。地点の『三人姉妹』は、“春風舎こけら落とし”というまた新たな危険を手にしています。

あれからもう10年以上が過ぎました。人の性格はそう簡単には変わりませんね。自信しかありません。体力しかありません。だから初演とはまったく違うものになってしまいました。
さぁ、今日の『三人姉妹』をみなさんにお目にかけます。何があれから更新されたのか。ひとつだけ伝えておきます。人が人と対話することへの欲求は、見事にすれ違うということです。私たちは、人のことを本当に見ているのか。人の言うことを本当に聞いているのか。そして自分のことを、さらに世界のことを本当に見聞きしているのか。何もかも見事にすれ違うということです。チェーホフは、このすれ違いにドラマを見出した。そして私は、この“すれ違い”こそが、リアリズムだったのかと10年が過ぎてやっと気がつきました。
ですから、みなさん安心してください。今日の『三人姉妹』は、決して難しくありません。前衛劇でも実験劇でもありません。これから始まるのが、あの有名なリアリズム演劇なのです。そうです。100年前に日本人が一生懸命に輸入したあの近代リアリズム演劇ですよ。もう知っているでしょう? あの苦労を。客席で我慢してきたあの暇を。知らないとは言わせませんよ。だからみなさん、今日こそ、ざまぁ見ろです。私たちのリアリズム、私たちの生きざまぁを見ろということです。
私はここにリアリズム宣言をいたします。今日、これから始まる『三人姉妹』こそが、我々が苦労の果てに勝ち取った真のリアリズム演劇なのです。ずいぶん長い時間がかかったものです。今日は記念すべき日ですから、みなさん大いに笑いましょう! 泣いたってかまわない!  改めてこの奇跡を生んでくれた多くの出会いに感謝します。そして、チェーホフ、あなたにはもう感謝してもしきれません。ありがとう。おめでとう。

三浦基
出典:当日パンフレット

  • 2015
    日程・会場
    2015.3.9-22 KAAT神奈川芸術劇場〈中スタジオ〉 
    アントン・チェーホフ





    翻訳
    神西清
    演出 
    三浦基
    出演 
    安部聡子 
    石田大 
    伊東沙保 
    小河原康二 
    岸本昌也 
    窪田史恵 
    河野早紀 
    小林洋平 
    田中祐気
    スタッフ
    舞台美術:杉山至
    衣裳:コレット・ウシャール
    照明デザイン:山森栄治 (KAAT神奈川芸術劇場)
    照明オペレート:岩田麻里(KAAT神奈川芸術劇場)
    音響デザイン:徳久礼子 (KAAT神奈川芸術劇場)
    音響オペレート:稲住祐平(KAAT神奈川芸術劇場)
    舞台監督:小金井伸一(KAAT神奈川芸術劇場)
    プロダクション・マネージャー:安田武司(KAAT神奈川芸術劇場)
    技術監督:堀内真人 (KAAT神奈川芸術劇場)
    宣伝美術:松本久木 (MATSUMOTOKOBO Ltd.)
    制作:伊藤文一 (KAAT神奈川芸術劇場)小森あや 田嶋結菜
    主催
    KAAT神奈川芸術劇場 (指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
    助成
    平成26年度文化庁劇場・音楽堂活性化事業


    KAAT神奈川芸術劇場×地点 共同制作作品
  • 2019
    日程・会場
    2019.7.4-11 KAAT神奈川芸術劇場〈中スタジオ〉
    2019.8.22-25 京都芸術センター 講堂
    出演
    安部聡子 
    石田大 
    伊東沙保 
    小河原康二 
    岸本昌也 
    窪田史恵 
    黒澤あすか 
    小林洋平 
    田中祐気
    主催
    合同会社地点  
    提携
    KAAT神奈川芸術劇場 [神奈川公演]
    共催
    京都芸術センター


    Co-program2019 カテゴリーD「KACセレクション」採択企画

劇評

三浦基演出の『三人姉妹』ほど、ひどく風変わりで、独創的で、激しい身体性にあふれ、しかも観る者の心に痛切に迫る舞台は観たことがない。優雅なワルツとは裏腹に、ここでは一見静かな台詞の裏にひそむ強い感情、敵意、あるいは愛着が、格闘技にも似た激しい身体の動きとなって表現されるのだ。台詞もナチュラルな語り口ではなく、「地点語」とも言われる独特の異化作用を加えたしゃべり方で行われた。しかも、舞台を観ながら驚いたのは、台詞の順序を入れ換え、不条理な文脈に置くことでチェーホフの断片的な台詞がかえって独立した意味を持ち、登場人物の孤独感と喜劇的な愚かしさがくっきりと浮かび上がってきたことだ。休憩なしの約一時間二十分、じつに知的で、じつに感動的な出色の舞台だった。過大な運動量にも関わらず、息も乱さずに台詞を語り続けた俳優たちの若いパワーにも圧倒された。

扇田昭彦
「ダンスマガジン」2015年6月号

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください