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劇団CHITEN

2012 KAAT神奈川芸術劇場 / 撮影:青木司

トカトントンと

  • #KAAT神奈川芸術劇場
  • #太宰治
  • #日本文学

死のうと思いました。死ぬのが本当だ、と思いました。
前方の森がいやにひっそりして、漆黒に見えて、
そのてっぺんから一むれの小鳥が一つまみの胡麻粒を空中に投げたように、音もなく飛び立ちました。

作品概要
KAAT神奈川芸術劇場との本格的な共同制作作品第一弾として、1ヶ月半に及ぶ滞在制作とKAAT技術課のプランナーとの初の共同作業によって生まれた作品。舞台美術は、横浜を代表する建築家・山本理顕が担当し、風を可視化する無数のパネルと、舞台奥が低く手前が高い傾斜のついた逆開帳場の舞台がつくられた。太宰治の短編「トカトントン」と「斜陽」を構成し、〈戦後〉から抜け出せない日本人像を浮き彫りにした。

三浦:太宰の文体は語り調なんですね。そこに演劇に近いというシンパシーを持っている。技術的に太宰の文体を演劇でやったら面白いんじゃないかと思いました。意識したのは、戦後ということ。終戦直後の空気というか、風を表現したいなと思っていて。例えば沖縄の基地問題など、全然風が止んでいない、いまも突風が吹いていると思うんです。また、「トカトントン」と「斜陽」をやるということは、すなわち日本の近代化がどう行き詰って来たかという歴史でもあると思うし、今回、批評家としての太宰治に焦点をあてていますから、現在の日本の情況や私たちの生活、精神状況を意識して作っているつもりです。(中略)見えないものをみるのが演劇の醍醐味だとすれば、本当に見えなかったらどうだろうと思ったんです、直感ですけど。「トカントントン」は焼け野原からの復興の話ですが、その大地が不在である、つまりマイナス地点からの出発というのかな、それを表現したかった。また、小説の文体を使うということは作家の頭脳をそのまま提示することなわけで、きわめて抽象的な作業なんですね。だからできるだけ具体的に見せた方がいいのでは、と思って。でも理顕さんから、抽象的な方がいいという提案もあったので、目に見えないけれど具体的なもの、と考えて出て来たのが「風」。風は対象に当たって初めて存在に気付くものですから。

出典:当日パンフレット

  • 2012
    日程・会場
    2012.2.9-14 KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
    原作
    太宰治
    演出
    三浦基
    出演
    安部聡子 
    石田大 
    窪田史恵 
    河野早紀 
    小林洋平
    用雅
    スタッフ
    美術:山本理顕 (山本理顕設計工場)
    照明:大石真一郎 (KAAT神奈川芸術劇場)
    音響:徳久礼子 (KAAT神奈川芸術劇場)
    衣裳:堂本教子
    舞台監督:山口英峰 (KAAT)
    プロダクション・マネージャー:山本園子 (KAAT神奈川芸術劇場)
    技術監督:堀内真人 (KAAT神奈川芸術劇場)
    宣伝美術・WEB製作:松本久木 (MATSUMOTOKOBO Ltd.)
    制作:伊藤文一 (KAAT神奈川芸術劇場)田嶋結菜
    広報:熊井一記 (KAAT神奈川芸術劇場)
    営業:中里也寸志 (KAAT神奈川芸術劇場)
    主催
    公益財団法人神奈川芸術文化財団
    助成
    平成24年度文化庁優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業
    EU・ジャパンフェスト日本委員会
    KAAT神奈川芸術劇場〈NIPPON文学シリーズ〉 
    地点×KAAT共同制作作品
  • 2013
    日程・会場
    2013.3.15-19, 24 KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉

劇評

太宰治の有名短編「トカトントン」に、同じく太宰の『斜陽』の一部を嵌め込んで構成された作品。とはいえ一般的理解の範疇の「文学作品の演劇化」を想像していると痛い目に遭う。「地点語」などと評されることもある、センテンスを破壊—分断されアクセントとイントネーションを徹底的に歪形された発話と、俳優の身体がそこに在るという即物的事実の根源と極限をとことんまで追い詰めた異様にインテンシヴな挙動によって物語られる太宰は、やがてそれ自体がトカトントンという非意味の音へと吸収されていく。これは三浦と地点による敗戦後論であり、天皇制論であり、日本論である。しかもそれは些かも過去のものではない。歴然と、毅然としてアクチュアルな問題である。(中略)三浦基が震災後のことを「強く考えて」いないわけがない。それどころか、こんな舞台を造り上げて、こんな言葉を呟くことで、彼は一年前のあの出来事に漸く落とし前をつけたのだと思う。

佐々木敦
新潮 2012年3月号

 

太宰治が死の前年に発表した短編「トカトントン」は、軍国の幻想から目覚めると同時に精神的インポテンツに陥った戦後精神の地獄、の笑話である。演出・構成の三浦基は、それを解体した上で『斜陽』を挿入、不可能な救済を求める「手紙」の集合体として再構成している。5人の見事な演者が身体化する、太宰言語の音はそのままに、流れとリズムを撹乱した独特の舞台言語、そして、シンプルでありながら静と動を兼ね備えた、建築家・山本理顕による完璧無比の「舞台美術」。どれを取っても真に瞠目に値する。だが何より驚嘆させられるのは、太宰の現代的ポテンシャルを最大限引き出し、ユーモアとパワー溢れるビジョンを与えた三浦の才能なのだ。我々の生の実感を奪い、意味を無化し、言葉を単なるノイズに変えてしまう正体不明の「トカトントン」。太宰の告げるその軽く虚しい響きに対し、三浦は憤怒漲る大轟音で応える。過去からの「手紙」に、現代の舞台が出した「返事」である。傑作。

村井華代
新潮 2012年3月号

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