作品概要 前年に上演された『海と日傘』に続く、三浦にとっては二度目の「青年団若手自主企画」での上演。一つの場所で複数のテキストが進行する、AプログラムとBプログラムの2本立てであるなど、その後の地点の公演にも共通してみられる要素がすでにいくつか出現している。この年青年団に入団した小林洋平が初めて三浦演出作品に参加した作品でもある。タイトルは後に劇団の名前となる。

 


 

1998  
日程・会場
1998.9.15-22 こまばアゴラ劇場(東京)
 
Aプログラム……『蝶のやうな私の郷愁』作:松田正隆 『矢印の方向』作:山岡徳貴子
Bプログラム……『美しい日々』作:松田正隆 『MOTHERS』作:金井博文
演出 三浦基
出演 Aプログラム
『蝶のやうな私の郷愁』
木崎友紀子
藤木卓

『矢印の方向』
佐藤一貴
端田新菜

Bプログラム
『美しい日々』第1部より
太田宏
小林洋平
斉藤和華子
島田曜蔵
成川知也
能島瑞穂
町田知子
松田昌樹
渡辺香奈

『MOTHERS』
岩田奈保子
小林加奈子
佐藤弥栄
福士史麻
程山麻理子
スタッフ 美術・装置:突貫屋+ZEST
照明:西本 彩、田村みずほ
音響:足立誠
音響協力:永井秀樹 
宣伝美術:秋山建一
記録写真:坂田峰夫
映像記録:小口宏
タイムキーパー:川隅奈保子
制作:兵藤公美
総合製作:平田オリザ
協力 (有)アゴラ企画

 

 

『地点』の密かな見方

いきなりですが、この演劇の隠れたテーマは「不安」です。
『地点』を作っていて、私がどの作品にも共通した想いを込めたとすれば、人が不安を表出する瞬間を分析しようとしたことです。――それは、チリチリと持続するもので、本人さえ気づかず、無意識のうちに、ときには虚しくも残酷なまでに、突如、吹き出すものである――そんな仮説を立ててみました。
この仮説が見る者へリアリティを持って伝わるのかということを、私たちは終始、考えて作ってきたように思います。
さて、この『地点』がAとBの2プログラムに分かれているのには、私なりのねらいがあります。
Aプログラムの『矢印の方向』と『蝶のやうな私の郷愁』はともに男と女の2人芝居です。それ以外の人物は登場しません。つまり会話が演劇を支える軸になっていて、これはストーリーの枠組みがしっかりしていないと成立しないわけです。
Bプログラムの『美しい日々』と『MOTHERS』は、3つの部屋と総勢14人の登場人物によって紡がれます。作家には失礼ですが、どちらかといえば、ストーリーはあまり重要でなくなってしまっています。ですから、「クライマックスはどうなるんだ!」「オチは?」といった見方をされても、腑に落ちないであろうことははじめに言っておきます。人物の行き来(プロット)が軸になって演劇が進行するわけです。
つまり、それぞれのプログラムが、演劇を支える要素の両極に位置しているのです。本来なら、1本の作品のなかでこのバランスをどうとるかということが演出の仕事だと思います。しかし、今回はこの2つの要素を分離しました。はじめからバランスのとれないなかで「それでも演劇は面白いのか」といういささか大胆な試みを目論んでみたわけです。
ま、むずかしいことではありません。両方をご覧になられたお客様には、そういう演劇の大きな振れ幅みたいなものも感じていただければ、うれしく思います。
そして、ABどっちが面白いかという残酷な比較を、どうぞアンケートにでもご記入下さい。
 
1998年9月 三浦 基(青年団演出部)

出典:当日パンフレット
劇評 青年団若手自主公演『地点』(総合製作:平田オリザ、構成・演出:三浦基)。この公演は4つの戯曲を2本ずつ、A、Bのプログラムに分けて上演された。(中略)A、Bともに場所はアパートの一室で、そこで繰り広げられるドラマを「青春群像オムニバス」とうたった上演だ。4作は登場人物は全く別で、Aプロが二人芝居、Bプロは多人数だが、演じられる場所は同一で、夫婦、兄妹、婚約者などが登場して、いずれのケースも生の不安に色濃くおびやかされている群像だ。この同一の場所で生起するドラマが不安感の焦点を結んでゆく構成が鮮やかで、部屋そのものがまさに生きている地点として浮かび上がってくる。総じて若手俳優が人物のアクセントを個性的につくるセンスが良くて、それぞれの可能性を十分に感じさせる舞台になった。平田が自負するように、そこらの小劇場にひけをとらない、若手公演の域を越える充実感があった。

噂の眞相 1998年12月号
江森盛夫